公共圏の岐路:安倍首相の電波オークション示唆発言を受けて
久々のブログ更新になります。
Twitterで細切れの発言をしていた方が楽というか、まとまって書くことがなかったというか。まあ色々理由はあるんですが、それは置いておいて。
とにかく気になった記事があったので思うところを書きます。
安倍首相、放送制度改革を示唆
以下の記事は、安倍首相がBSフジの「プライムニュースの集い」というパーティにて放送事業の規制改革を行う旨の発言をしたというものです。
この「放送事業における規制改革」というのはいわゆる電波オークション(周波数オークション)のこと。これは放送事業を入札形式にして新規参入を許可し、健全な自由競争を促すというものです。
おそらく放送利権は最も硬い岩盤規制のひとつです。ここにメスが入るということになれば相当な税収が見込めます。しかし、そこに至るまでにはかなりの反発が予想されるでしょう。なぜなら最大の既得権益を持った既存のテレビ局が反対するから!それゆえテレビで絶対に話題にしないから!
なので改革には相当な政治エネルギーを要することでしょう。
ちなみに電波オークションについてはこの高橋洋一氏の記事がまとまっていてわかりやすいです。
新聞テレビが絶対に報道しない「自分たちのスーパー既得権」(髙橋 洋一) | 現代ビジネス | 講談社(2/3)
で、この安倍首相の発言に関してはいくつか重要な点があって以下の3つのポイントがあげられると思います。
・フジテレビ内部における離脱派の存在
・保守派チャンネルへの思惑
・放送法4条はどうするのか
フジテレビ内部における離脱派の存在
まずフジテレビ内部における離脱派の存在について。
そもそもこれまで電波オークションというのはタブーだったわけです。とりわけテレビ業界において。なぜなら自分たちの既得権益を守りたいから。それなのになぜ安倍首相はBSフジというテレビ局のパーティにてそのタブーな発言をできたのか。
普通に考えたら「これからあなたたちの持っている権益を崩しに行きますよー( ^ω^ )」なんて言ったらこれはもう煽り以外の何者でもないですよ。じゃあなんでそれが出来たのか。
考えるに、「フジテレビ内部の離脱派の存在」を安倍首相が知っていたと考えるのが妥当ではないでしょうか。
それはどういうことか。
つまりこういう理屈です。
フジテレビの凋落っぷりはもう皆さんご存知かと思います。ここで例えば、フジテレビの社内には「もうこんな会社やめたい」「沈む船から逃げ出したい」みたいな人がいたとします。中には転職を考えている人もいるでしょう。
ここで仮に電波オークションで新規参入が許可されるとなれば、まずは業界人が新たに事業を始めた方が圧倒的に有利です。なぜなら業界人はノウハウも人脈も持っているから。ゆえに全く新規参入は不利。
だから現状のテレビ業界で不満を持っており、かつ違う場所で新しく放送事業をしたいという人または派閥は電波オークションは大歓迎だろうと。むしろ推進したい立場なわけです。
(他方、フジテレビの主流派はじめ他局の方々、いわば今後も既得権益にしがみつき、その恩恵にあずかりたい方々は今回の発言には当然激おこなんでしょうけど。)
保守派チャンネルへの思惑
次に保守派チャンネルの思惑について。
ではなぜ安倍首相は新規参入を進めたがっているのか。
ずばり、安倍さんは懇意のメディアが欲しいということでしょう。懇意のメディアを作って、政権寄り・保守寄りの意見をバンバン放送させたい。でも現状ではそんなことできません
なぜなら公共性の観点より、テレビやラジオは政治的に公平中立でないとダメだから。そのように法律で定められているんです。
それこそが放送法4条。
放送法4条はどうするのか
これは番組制作における政治的公平性を定めたもので、以下が詳しい文言です。
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。一 公安及び善良な風俗を害しないこと。二 政治的に公平であること。三 報道は事実をまげないですること。四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
そう、この法律があるから建前上どの番組も政治的に完全に不偏不党の中立でやっている。ただ実態は違います。まあ政治的に色がついている番組って多いですよね、意外と。
どうして法律と現実に乖離があるのでしょう。
まず第一に「政府が大々的に放送内容精査して公平かどうか判断する」なんてのはできません。それは権力による検閲に発展しかねないわけでそんなのは世論が許しません。だから多少番組内容が偏っていても、政府としてはそんなにやすやすとチャチャを入れることはできないのです。
そしてもう一つは法律の解釈。
実はこの法律は主に2つの解釈に分かれています。「4条は倫理規範だ」という立場と「この法律は罰則規定を伴うもの」とする立場。
前者は憲法における表現の自由を論拠にある程度の報道の自由を容認すべきとする意見。
他方で後者は、放送法・電波法にのっとり「4条に違反した場合は免許停止すべきだ。規制強化しろ!」という主張をしているわけです。(敵対する党派の意見を封じ込めたいがためにこの法律を根拠につべこべいう輩もいます。)
そこで、そうした解釈の違いを根本的に解決するのが「放送法4条削除、新規参入許可」という改革案です。
このような改革案が出てくるのは昨今のメディア状況を見れば割と自然な流れのよう思います。
これだけネットが発達して自由に情報を入手でき、情報の受け手側に選択肢が多様に用意されている。そんな中テレビだけ、ある意味では欺瞞的に公正中立を謳っているのはおかしい。いっそ主義主張を明確にした方が視聴者にとってはわかりやすい、ということになるのです。
新規参入についても時代錯誤的です。なぜ新規参入を認められないのでしょう。あらゆる分野で自由競争が行われている中、なぜ限られた人たちだけに電波免許が交付されているのでしょう。こんなものは既得権益以外の何物でもありません。
このような理屈の上で規制緩和推進という流れなるのです。
そしてこれをやったのがアメリカ。アメリカではフェアネス・ドクトリンというの日本の放送法4条にあたる法律があって、これをレーガン政権が撤廃しているんですよね。
結果的にどうなったかといえば、CNN、MSNBC、FOX、といった左右両極のメディアの先鋭化。そしてFOXニュースについて言えば、9.11後からイラク戦争開戦にいたる扇動的な報道。そして一昨年の米大統領選における報道。もちろん、このフェアネスドクトリン撤廃については賛否色々あって、共和党リバタリアンにとっては当然賛成。一方で民主党はフェアネスドクトリン復活を訴え、度々法案を提出するも否決される状況が続いている。アメリカを見ればメディア・公共圏という足元から民主政治の土台が崩れているという懸念はどうしても拭えません。
さて、いろいろ書いてきましたが要は「電波オークション」と「放送法4条削除」は市場における自由競争を進める上ではセットになる可能性が高いということです。当然、安倍首相もそれを前提で考えているだろうというわけです。(ただアメリカのように民主主義の機能が脅かされるほどの先鋭化と分断のリスクがあることには気づいているでしょうか)
さあそろそろこの辺で、結論めいたものを書かねばと思うわけですが。どうしましょうか。
まず、テレビ業界という最大の既得権を崩して健全な自由競争が行われるということに関して消費者にとっては、とても良いことだと思うのですが。税収も増えるし。(なんといっても憎っくきテレビ・マスコミという既得権益を破壊できるし。まあこれは冗談として。)
一方で放送法4条削除についてはむずかしいですよね。現状では守られているとは到底言い切れない。だからこそ削除したあとどうなるんだろうという疑問が浮かぶ。削除して多様なコンテンツが増えることに関しては消費者にとって有益なわけですからね。かといってアメリカのような先例を見ると不安は残る。実に難しい。(結論据え置き)
とにかくメディアや世論の先鋭化を防ぐ装置は必ずどこかで必要になってくるのは確かです。それが放送法4条なのかリテラシー教育なのか、はたまた両論併記のメディアなのか何なのか。
とりあえずまだ放送の規制緩和においては、まだ議題として載りつつある段階なので今後の議論に注目すべきでしょう。今後マスコミで大々的に取り上げられるかは分かりませんが。(←多分これが一番重要)
ちなみに放送法管轄に関しては総務省ではなく独立行政機関でやるべきという大変重要な議論が残っていますがまた書きます。